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DMAを用いたナノ粒子のサイズ測定

Size Measurement of Nanometer-sized Particles with Differential Mobility Analyzer

薛光洙、平澤誠一、空閑良壽、岡田芳樹、武内一夫

Kwang Soo Seol, Makoto Hirasawa, Yoshikazu Kuga, Yoshiki Okada, Kazuo Takeuchi

理化学研究所

RIKEN (The Institute of Physical and Chemical Research)

2-1 Hirosawa, Wako-shi, Saitama 351-0198

室蘭工業大学応用化学科

Dept. of Applied Chem., Muroran Inst. of Technol.

27-1 Mizumoto, Muroran-shi, Hokkaido 050-8585

Abstract

The principle, properties and recent development of a Differential Mobility Analyzer (DMA) for the size measurement of nanometer-sized particles are introduced. The DMA specially designed for low-pressure measurement enabled high-resolution size classification of nanoparticles at pressure as low as about 200 Pa.


1. はじめに


  ナノ粒子が発生する種々なプロセスにおいて、その粒子径をその場で観測したい要求がある。従来からの一般的な粒子径測定技術として、レーザー光散乱装置があるが、その測定可能サイズの下限は、サブミクロンメーターである。したがって、サブミクロン以下のナノ粒子をその場観測したい場合は、新たな測定技術の開発が必要である。

 二重円筒型の微分型静電分級器(Differential Mobility Analyzer, DMA)は、大気中のエアロゾル粒子の粒子径分布測定器として、1ミクロンメーターから10ナノメーター程度の微粒子の測定に用いられてきた1)。近年、微小粒子径で特に問題となるDMA装置内での微粒子沈着損失を低減するために、分級部を短くして装置内滞留時間を短縮し、さらに装置内でのシースガス流れを半径方向に乱れがないように整流部を工夫したDMAがウィーン大学で開発された2)。この新しいタイプのDMAは、サブミクロン以下のナノ粒子のサイズ測定器として期待されている。

 半導体の集積回路製造プロセスにおいて、CVD反応器内で発生する粒子が成膜面に沈着し、膜質の悪化、歩留まりの低下、成膜速度の減少を引き起こす。とりわけ、配線間距離がサブミクロン以下となる次世代ULSI製造プロセスにおいては、ナノ粒子の汚染が深刻な問題となる。したがって、プラズマCVD反応器に代表される減圧場において発生するナノ粒子をその場観察する手段の開発が、重要な技術課題のひとつである。

 われわれは、半導体分野の粒子汚染問題を対象のひとつと考えながら、減圧場仕様のDMA装置の開発を行ってきている。本技術ノートにおいて、その概要を述べたい。


2. DMAの原理

 DMAは、帯電微粒子の電気移動度の粒子径依存性を利用した静電分級器である。分級部は図1に示すような二重円筒よりなっており、内部にはキャリアガスが層流の状態で流れている。外周部より帯電粒子を流下させ、内外筒間に直流電圧を印加すると、帯電粒子はクーロン力により内筒に引き寄せられながら流下する。この際に粒子が流れを横切る速度は、粒子が流体から受ける抵抗力とクーロン力とのつりあいにより決定されるため、強い抵抗をうける大きな粒子はゆっくりと、逆に小さな粒子は速く流れを横切る。その結果、粒子が内筒に到達する位置は、粒子のサイズによって異なり、内筒にスリットを設けて、そこに到達した粒子のみを取り出すことにより、特定のサイズの粒子を得ることができる。分級部内でのガスの流れに乱れがあると、二重円筒半径方向の粒子の移動に影響し分級精度が落ちてしまうため、キャリアガスがきれいな層流となるように装置設計、ならびに運転条件の設定を行うことが重要となる。

DMAのディメンジョン、運転条件、印加電圧と分級粒子径との間には、式(1)のような関係があることが知られている。ここでいう粒子径とは、ガス中での粒子の移動しやすさ(すなわち電気移動度)から求めた、球形粒子相当径であり、沈降速度から求められるストークス径に類似したものである。ガス分子の平均自由行程が粒子径に対して無視できない領域では、粒子近傍のガスが連続流体とはみなせないために、カニンガム補正係数を導入する必要がある。

ここに、Ccはカニンガム補正係数、npは荷電の価数、_は流体の粘度、eは電気素量、dpは分級された粒子の粒径、Lは分級部の流れ方向長さであり、その他の記号は図1を参照されたい。

 式(1)から明らかなように、分級粒子のサイズは印加電圧Vにより調節可能であるので、印加電圧を変化させつつ分級粒子の個数をカウントすることにより、粒度分布を求めることができる。但し、DMAの測定で直接得られるのは、帯電粒子のみの粒度分布であることに留意する必要がある。電気的に中性な粒子は、分級部を素通りし、そのまま排気されてしまう。もともと電気的に中性な粒子をDMA測定のために帯電させている場合には、サイズごとの帯電効率が既知な場合に限り、補正を行うことにより中性粒子全体の分布を知ることができる。


3. DMAの分級特性評価

 DMAのサイズ分級特性を把握するために、DMAで分級した粒子をTEMでサイズを観測し、DMAでの設定粒子径と比較検討した。用いたDMAは、電気的に絶縁された二重円筒型のステンレス306製ハウジングで、内筒の外半径r1が25mm、外筒の内半径r2が33mm、分級部の流れ方向の長さLが18mmである。その構造の詳細は既報で述べられている3,4)。

 大気圧窒素気流中の電気炉内(940℃)で発生させたAgナノ粒子を、減圧仕様に設計されたDMA装置に導入した。導入部におけるガス圧力は、160Torrであった。図2にDMAの入口と出口部で捕集したAg粒子のTEM写真から求めたFeret径分布の結果を示す。図2(a)は、DMAで分級する前の入口部における粒径分布である。図2(b)から(d)は、それぞれDMAでの分級設定粒子径を24.8nm、16.5nm、8.94nmとした時の、TEM観察で得た粒子径分布である。これらのグラフより、分級前は、分布が非常にブロードであるのに対し、分級後は非常にシャープになっている、また、分級後の粒子径ヒストグラムのピーク値は、ほぼDMAでの分級設定値と一致していることがわかった。

 そこで、このTEM観測によって得られた体積平均径DV,TEMとDMAでの設定粒子径DDMAとの関係を図3に示す。このグラフより、DMA設定径DDMAの方がTEM観察径よりも約14%大きいものの、観測した粒子径6-25nmの範囲内において、両者は傾き1の良好な相関関係を持つことがわかった。また、TEM観察で得られた粒子径分布の幾何標準偏差は、本実験の粒子径範囲内においてほぼ1.1で一定であり、この値は、DMA内でのナノ粒子のブラウン拡散による分級分解能の低下を無視したときの理論的標準偏差値1.093に近い。したがって、本実験で用いたDMAでは、測定圧力領域でのブラウン拡散による分解能低下は無視できると考えられ、理想的な分級性能を有することがわかった。


図の説明文

図1 DMA(Differential Mobility Analyzer)の概念図

図2 DMA前後のAgナノ粒子のサイズ分布

図3 DMAでの設定粒子径DDMAとTEM観測によって得られた体積平均径DV,TEMとの関係

図4 低圧DMAシステムの概略図

図5 低圧DMAの分級性能

図6 低圧DMA伝達関数の_と_値

 
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