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DMAを用いたナノ粒子のサイズ測定
4.DMAの新規開発と応用

 最近、我々が研究開発した数百Paという低圧で動作するDMAシステム(以降、低圧DMAと呼ぶ)を紹介する。図4に、低圧DMAシステムの概略を示す。ここで、我々は、数百Paという動作圧力を実現するため、ガス排気に2台の大容量メカニカルブースターポンプを利用し、さらに圧力損失を引き起こすような要因をその設計から排除した。また、低圧での帯電粒子の濃度計測のため、圧力損失が少なくかつ効率がよいファラデイカップを開発し、実験に用いた。

 大気圧で動作するもう一つのDMA(DMA1)により粒子径別に分級した粒子を用い、低圧DMAの分級特性を評価した。一般に、DMAの分級特性は粒子径に対応する電気移動度の関数として表し、これをDMAの伝達関数と呼ぶ。次式に示す伝達関数5)は、電気移動度Zp’をx座標とした時に、設定移動度Zpを中心に左右対称な三角形の伝達関数カーブを与える。

                              

 ここで、αとβは伝達関数の高さと幅を決める定数であり、DMAの電気移動度をZpと設定した時(中心移動度と呼ぶ)に、実際に分級される粒子の電気移動度がZp’である。理想的なDMAの場合、αは1と、βはシースガス流量Qshとエアロゾル流量Qaeの比(Qae/Qsh)となり、最もシャープで、高い伝達関数を有することになる。DMA1により分級された特定の粒子径を持つ粒子を低圧DMAに導入し、その粒子径を測定することで、低圧DMAの伝達関数が求められる。

 図5に、低圧DMAの動作圧力が400Paの時、6nm_14nmの粒子において行った評価実験の結果を示す。図5の横軸Zp2/Zp1は、DMA1の中心電気移動度Zp1 と低圧DMAの中心電気移動度Zp2の比であり、その縦軸N(Zp2)/N0は、低圧DMAに導入された総粒子濃度N0と低圧DMAのZp2における出口粒子濃度N(Zp2)の比である。ここで、N(Zp2)はDMA1と低圧DMAの伝達関数の積の面積に比例しており、理想的な場合、二つのDMAの中心移動度が一致するところで最大になる。図5に示すように、Zp2/Zp1が1の時N(Zp2)/Noが最大になっている。この結果は、低圧DMAが正確にナノ粒子の粒径を計測していることを示す。図6に、実験から求めた200_933Paでの低圧DMAの伝達関数のαとβ値を表す。低圧DMAのαとβ値が理想値(α=1、β=Qae/Qsh)に非常に近い値であることがわかる。ここで、粒径が小さくなるにつれてβ値が大きくなる傾向が見られるが、これは約8nm以下の粒子においてDMAの伝達関数の幅が広くなる他の報告6)とも一致しており、ナノ粒子の拡散による影響と考えられる。

 以上の結果は、われわれが開発した低圧DMAがナノ粒子に対して数百Paという圧力下でも理想に近い分級性能を有していることを示している。今後、我々はこのDMAを、低圧雰囲気下で発生するナノ粒子の分析に利用する予定である。


5.おわりに

 形状に異方性がある粒子の場合、その異方性の測定をDMAで行うことはできず、球形相当径としての観測しかできない。しかし、DMAは、正あるいは負に帯電する粒子であれば、粒子の種類を問わず分析することができる。また、分級部の流れ方向長さLを変えることにより、ナノメーターからミクロンメーターまでの粒子径を測定することができる。常圧下はもちろん、本報告で述べた減圧下においても、DMAにおいて高精度の粒子径測定が可能になってきており、さまざまな環境下での、微粒子やクラスターの分析や応用に利用されることを期待する。


参考文献

1) E.O. Knuston and K.T. Whitby: J. Aerosol Sci., 6, 443 (1975)

2) W. Winklmayr, G.P. Reischl, A.O. Linder and A. Berner: J. Aerosol Sci., 22, 289 (1991)

3) T. Seto, T. Nakamoto, K. Okuyama, M. Adachi, Y. Kuga, K. Takeuchi: J. Aerosol Sci. 28, 193 (1997)

4) Y. Kuga, M. Hirasawa, T. Seto, K. Okuyama, K. Takeuchi: Appl. Phys. A 68, 75 (1999)

5) M. R. Stolzenburg: Ph. D. Thesis, University of Minnesota, MN, (1988).

6) H. Fissan, D. Hummes, F. Stratmann, P. Bushcer, S. Neumann, D. Y. H. Pui, and D. Chen, Aerosol Sci. Technol. 24, 1 (1996).


図の説明文

図1 DMA(Differential Mobility Analyzer)の概念図

図2 DMA前後のAgナノ粒子のサイズ分布

図3 DMAでの設定粒子径DDMAとTEM観測によって得られた体積平均径DV,TEMとの関係

図4 低圧DMAシステムの概略図

図5 低圧DMAの分級性能

図6 低圧DMA伝達関数の_と_値

 
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